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蝉しぐれ  2005 フジTV  ★★★★☆


蝉しぐれ  2005 フジTV  ★★★★☆_d0086262_104064.jpgここ数日、蝉の鳴き声が変わった。つくつく法師が「おおしいつくつく」と鳴いている。子供の頃、こいつが鳴くと「夏休みは終わりだよ!」と急かされているようで宿題が終わっていないわが身は、大いにプレッシャーを感じていた。過ぎゆく夏を告げるのがつくつく法師なら、蝉しぐれは、断続的に蝉が鳴きたてるさまを時雨の音に例えているから季節は真夏あるいは盛夏ということになろう。

そしてあの真夏日、荷車に乗せた父の亡き骸を必死で引く文四郎とそれを助けようとするふく。あの夏の日、蝉が泣いる情景の悲しさと、二人の人間関係の美しさをカメラは見事に映し出している。その後も境遇の理不尽さに苦しみつつも必死に生きようとする牧文四郎の姿が、日本の原風景を思わせる美しい映像と絡み合って素晴らしい。おととし劇場で見たが、今夜テレビで再び見る。この時期にか!と思わせるタイムリーな放映であった。

蝉しぐれ  2005 フジTV  ★★★★☆_d0086262_144570.jpg東北の小藩・海坂藩の自然のなかで雄々しく、そして屈託ない少年時代を過ごしていた牧文四郎に突然の不幸が訪れる。敬愛する父・助左衛門が藩内の勢力争いに巻き込まれ、反逆の罪で切腹を命じられたのだ。汚名を背負った武士の子を待ち受ける運命は、苛烈極まりない。わずか十五にして、文四郎は様々な苦難に直面することとなる。しかし、文四郎はくじけない。

そんな文四郎を暖かく見つめる目がある。同じ普請組の子として生まれ、隣同士で幼馴染として育ったふくである。しかし、ふたりはお互いの淡い思いをこころの奥にしまい、表すことはない。そんな二人を運命はさらに翻弄していく。ふくが江戸屋敷の奥に上がることになったのだ。抗えない定め。二人の恋は切なく終わりを迎える。

やがて文四郎の境遇にも大きな転機が訪れる。家老里中の命により、旧禄に復されることになったのだ。しかしその里中は、父を死に追いやった張本人であった。複雑なお家の事情に巻き込まれて行く文四郎。さらに文四郎のもとに、驚くべき報がもたらせれる。ふくが殿の寵愛を受け、御子を身ごもったというのだ。この御子をめぐるお家騒動が、やがてふたりを再びひき合せることになることを、文四郎は知る由もなかった。

蝉しぐれ  2005 フジTV  ★★★★☆_d0086262_1233758.jpgラストの再会シーンで文四郎が「ふく」と呼ぶ。この一言に込められた万感の想い。「うれしい。でも、きっとこういうふうに終るのですね。この世に悔いを持たぬ人などいないでしょうから。はかない世の中・・・」。ふくの言葉が切なく胸に残る。

藤沢周平作品の中で最も人気の高い傑作を黒土三男監督が15年の歳月を費やして映画化した。主人公・文四郎を演じるのは市川染五郎、ふくには木村佳乃。他に、緒形拳、原田美枝子、大滝秀治、柄本明、加藤、田村亮、大地康雄などの名優が脇を固め、ふかわりょう、緒方幹太、今田耕司ら若手も好演、新人の石田卓也、佐津川愛美が子役時代を演じた。作品のイメージソングとして使われた一青窈の「かざぐるま」も作品にマッチして良かった。


<今日の昼めし>
自宅でお好み焼き。納豆をのせた関東風も。
by inaminoTORAsan | 2007-08-26 23:52 | 映画のこと


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